次世代型現場力の創造

読んで欲しい人

読んで得られること


「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」ではなく「AX(アジャイル・トランスフォーメーション)」なるキャッチーな造語をタイトルに持ってきていますが…原題は「Doing Agile Right」つまり「アジャイルを正しく行う」です。この方が本書の内容を適切に言い表していると思います。

世の中にはたくさんの「Agile BS」(Agile Bullshit=でたらめアジャイル)が溢れています。現場レベルで発生する勘違いもありますが…多くは組織の経営陣や管理職が「アジャイルとは今どきなシステム開発手法の一種」と…致命的な誤解をすることで発生しているように思えます。

アメリカの国防総省が、ウォーターフォールからアジャイルへ移行し…「でたらめアジャイルに見分け方」などを発信している流れ…この記事がとても良くまとまっております。この資料にある見分け方は、発注者の観点ですが…組織内から見た「でたらめアジャイル」もたくさんあります。

本書には、組織的に「アジャイルを正しく行う」」方法が、とても良くまとまっています。

最初に紹介される事例は、システム開発ではなく…お菓子の商品開発のお話ですし、さまざまな分野でのアジャイル活用の情報が満載です。
組織において経営企画や人事部門から、DXやアジャイルをどう考えるか…のヒントも満載です。

アジャイルな企業を真似することの難しさとして「Spotify」と「Amazon」の話が紹介されているのも興味深いです。
Spotifyの組織構造(というか名称)を「Whyを理解せず」取り入れても、うまく行きません。Spotify自身もWhyを体系化して発表したりしていないし…そもそも「真似するな」と公言しているのですから当然ですね。
Amazonはアジャイル企業ではありますが、ものすごく極端な文化を持っています。アジャイルとは真逆といえる官僚主義な文化やルールも数多く持っています。彼らと完全に同じことをすべきとも…したいとも思いませんが…とても参考になります。

これらの事例は、Whyを理解した上でまずは真似たとしてもて…振り返りを通じて自分たち流に育てることが大事です。

本書では「アジャイルの本質は、変化が激しい世の中でイノベーションを起こせるようになること」であり「生産性の向上」ではないという表現がよくされています。この部分は…とても伝え方が難しいと思います。
確かにアジャイルは「ものづくりが早くなるんでしょ?生産性があがるんでしょ?」と言われがちです。大きな組織が間違った解釈のもと…アジャイルを(生産性が上がるから)レイオフできる理由にする現場を見てきた著者たちだからこその表現だと思います。

しかし「ではイノベーションが不要な分野ではアジャイルは効果がない」のかというと…私は違うと思います。
どんなルーチンワークでも改善の余地は残っているものですし、そもそも業務構造を大きな視点で変えることで…イノベーティブとも言える改善ができることも多いです。定期的に振り返り、フィードバックを受けて改善を繰り返す活動は、そんな仕事でも役にたちますし、結果的に生産性が上がることは少なくありません。

よく講師をしていると「弊社はウォーターフォール文化が根強いのですが、アジャイルと併用できますか?」という質問を受けます。その意図が…

などによって回答がガラリと変わりますが…この手の課題に対するヒントは、本書でほとんど見つかると思います。

巻末にある日本語版付録も非常に参考になります。

という…これまた講師をしているとよく聞かれる意見に対する処方箋がコンパクトにまとめられています。

大きな組織のリーダーには…ぜひ読んで欲しい一冊です。

本書はオーディオブックで聞くのもオススメです。